2007フォーラム「本音で語る行政のあり方」

〜改めるべきところと守るべきところ〜

熱い討論 真剣に聞き入る

 地域デザイン研究会(平峯悠理事長)主催の2007フォーラム「本音で語る行政のあり方」(市民・住民のために改めるべきところと守るべきところ)が07年2月17日大阪市立阿倍野市民学習センターで開催され、パネリストらの熱い討論に約100人の聴衆が真剣に聞き入った。
パネリスト
 白井文氏(尼崎市長)

 西村肇氏(前城崎町長、城崎温泉西村屋社長)

 杉立利彦氏(SIN生活空間研究所主宰)

 田村恒一氏(阪神高速道路株式会社常務取締役)
の4人で、
 建山和由氏(立命館大学教授)
コーディネーターを担当して進められ、
行政の硬直化構造の背景と課題、市民との関わり方などについて本音で語り合った。パネルディスカッションの要約を掲載する。(文責:大戸修二)


左から、建山和由氏、白井文氏、西村肇氏、杉立利彦氏、田村恒一氏


建山


建山和由氏(立命館大学教授)

 今日のテーマは「本音で語る行政のあり方」。1月に宮崎県知事に就任した東国原さんが県政をどう変えていくのかに全国の注目が集まっている。何かを変えてほしいという思いから、行政の専門家以外の人が首長になることが今後も増えていくだろう。行政出身者が首長になる場合も、公約を明確に出して進めるようになった。一方で首長の熱い思いがあっても行政が簡単には変わらない。行政が変わらなければ、民意が反映されない負のスパイラルに落ち込んでしまう。理想的には市民が行政に常に関心を持ち、互いに信頼関係と緊張関係を持てるなら、社会は変わっていくと思う。今日のパネルディスカッションでは、負のスパイラルといえそうな課題と、それをいかに改善していけばよいのかを中心に議論したい。まず出席者の方々に自己紹介と、テーマに対してどんな思いでのぞむのかを話していただきたい。

●市民の協力があってこそ

白井


白井 文氏(尼崎市長)

 昨年12月から尼崎市長2期目がスタートした。市長に初めて就任した当時は大変な財政状況で、平成15年から19年度までの5年間で800億円が足らない。単年度で160億円ということで、180億円を超えると財政再建団体になってしまうという懸念があった。就任時に既に250項目の財政再建プログラムがあって、実現するのは私。市民は市長が代わればよくなると思い込んでいたのに、私が始めた仕事の大半はサービスのカット、施設の統廃合、土地の売却などで、4年間それを続けた。財政再建を念頭に置きつつも福祉サービスも低下しないよう、バランスをとることを最重要項目として市政運営に取り組んだ。財政の悪い状況を市民に理解していただくための対話を、日時を変え、場所を変え、時には対象者を変えながら進めた。5年間で800億円が足らない、10年以上にわたり2,300億円の起債残高が続くと話すと、最初は「お先真っ暗だ」「そんな話はまったく知らなかった」「そんな財政に誰がしたのか」という言葉を多く聞いた。しかし話を重ねる中で、「このままでは借金は子ども、孫の世代に引き継がれていく」と話したら、会場の市民の一人が私の方でなく参加者の市民たちに向かって「私たちだけが便利で豊かでいいの。それではあかんでしょ。不便でもしんどくても見直すべきところは見直して、少しでも子や孫たちにいい尼崎を引き継ごう」と発言した。それが契機となって、財政再建が前に進むようになったと思う。市民の協力があって、結果的に5年間で収支バランスが合いそうなところまで来た。

西村


西村 肇氏(前城崎町長、城崎温泉西村屋社長)

 わずか2年8カ月だが2年前まで城崎町長を経験した。人口4,000人、職員数は100人強。当社の従業員数のほうが多いし、町の予算より当社の売上高も多い。小さな町の最後の町長だったが、現在は1市5町の合併で新豊岡市。1市5町の町長らで1,300項目の合併項目を協議し皆の合意で決めた。合併に際しては、城崎温泉として生きていくということで城崎駅を城崎温泉駅に変え、温泉は門外不出とした。しかし、合併後に痛感したのが行政サービスと住民との距離が遠くなってしまったこと。振り返れば、合併をしなかった方がよかったと思える。

杉立


杉立利彦氏(SIN生活空間研究所主宰)

 私は長らく市浦都市開発建築コンサルタンツでいろんな業務に関わり、地域スケールの仕事から建築分野まで、主に公的住宅を中心に手がけてきた。私は行政の施策づくりや時代の要請に応えたプロジェクトづくりに裏方的に関わってきたという立場から、パネルディスカッションの話に加わっていきたい。

●「公」とは世のため人のため

田村

 公や官の字がつく事柄のイメージが悪化しているが、「公」の重要性をもう一度見直すべきだと思う。行基という僧侶は、世のため人のためになるあらゆることを行った。専門分野の土木も、本来は世のため人のため。公とはそういう存在だ。行政も世のため人のためにあるのだが、何とかして立ち直らなければならない。


田村恒一氏(阪神高速道路(株)常務取締役

行政に関わる人とは首長、議員、職員である公務員を含めていうのだが、世のため人のためという初心に帰るべきだと思う。阪神高速道路では、民営化にともない民間企業のビジネスモデルを取り入れている。行政の世界でも民間のビジネスモデルを活用したらいいと思う。

建山

 これはだめ、あれはだめ。だからだめという議論だけでなく、1つでも2つでも明るい展望を引き出したい。首長が代わっても、なかなか思い通りの変革ができない。何が原因しているのか。首長を2年前に退いた西村さんから、行政硬直化の事例について話していただきたい。

●致命的な「責任」と「スピード」

西村

 首長になって初めて感じたのだが、外から見るのと中に入っての違いは、公務員が意外と優秀であるということ。しかし人事が硬直化していて、上が詰まっていて有能な人材を上げられない。行政に致命的に欠けているのは責任とスピード。行政はやはり地域のサービス業であるという意識が必要だ。私は城崎町長に就任した当時、「町長は城崎観光株式会社の社長、職員は社員、議会は取締役会、株主は町民の皆さん。お客様は外から来ていただく」というメッセージを発した。

●民間と違うルールがロスを生む

杉立

 公共系組織では責任の所在が民間と違うルールで動いていて、仕事にロスを生むのではないのか。また、頑張るほど給与が増えるというものでもない。経済的インセンティブがないというのも考え直すべきポイントかもしれない。

白井


約100人の参加者

 職員に対し「現場がいのち。市民の目線からどうなのかを判断すべき」と主張したが、最初の頃は「無理です」「やったけどだめでした」という反応も多かった。「こうすればできるということを考えて」と4年間言い続けて、職員も市民とのコミュニケーションができるようになった。就任後にJR事故やアスベスト問題などもあった。アスベスト問題は国が対応するとはいえ、尼崎市に実情を聞かなければ分からない。現場がすごく大切で、地元自治体はすべて掌握できる立場にあるという自負を持たなければならない。自負を持つことが仕事のあり方を変えることにもなると思う。それが市民からの信頼を得ることにつながる。

建山

 中にいる職員はどう考えているのだろうか。パネラーの指摘について、長い行政経験の立場から田村さんに発言していただきたい。

田村

 皆さんが指摘されたことは十分理解できるし、国や県の言いなりに進めればうまく行くという時代が長く続いたのも事実と思う。時代は変わったが、行政の仕事の仕方や制度が追いついていない時期にあると思う。世のため人のために職員は改革マインドを持ち、現場に対応していくべき。また、積極的な職員の処遇をきっちりしていくことも重要。給与を上げるというより、人事を通してインセンティブを与えることは可能だと思う。組織が弾力的でないという指摘だが、最近は課をグループに変えて、グループ内では弾力的にやっているのも確か。責任とスピードの問題は、ご指摘のとおりに無責任的でスピードは遅い。民間の経営手法を取り入れることで、問題点はかなり解決すると思う。

建山

 縦割り組織とも言われ、それが壁となって実行できないケースもあるようだが。

●過去・現在・未来への責任

西村

 町長時代、責任には3つあると職員に言った。過去、現在、未来に対しての3つ。職員は「前例がない」と言うが、前例はつくるものだと思う。否定でなく肯定的な発想から入るべき。経済学者のミルトン・フリードマンは「ひとのためにひとの金を使うとき、もっとも節約と効率から離れたものになる。自分のために自分の金を使うとき、最も節約と効率が働く」と語った。ひとのためにひとの金を使うのが公共事業で、だからこそ、無責任な金の使い方が日本国中でされている。民間のように、行政もヒト・モノ・カネを重視していけば、おのずと節約と効率が働くと思う。

田村

 公共事業が全てそうだとはいえないと思う。阪神高速民営化の根本的な考えは、民営化で借入金を45年間で返済するようにすれば、無駄な道路をつくらないだろうということ。京阪神地域の高速道路ネットワークが繋がっていないのはどう考えても意味がないし、後の世代に責任を取るという立場から、私は必要な公共事業はあると思っている。

西村

 立案はいいとしても、実施のときに問題がある。例えば大型コピー機導入ではメーカー名を指定して入札する。民間なら機能を示すだけ。だから安くなる。予定価格の設定でもいい加減なことが行われていた。もっと納税者の意識を持つべきだと思う。

田村

 確かに無駄があったことを、行政は真摯に受け止めなければならないと思う。

建山

 職員意識の問題は重要だが、一方で職員はぎちぎちの仕事をしていて、柔軟な発想が出てこないのかも知れない。民間企業の発想や経営手法を取り入れることについて、白井市長はどう思うか。

●やらされ感から「やりがい」へ

白井

 財政状況が悪い中で市役所内に閉塞感が漂っていたため、TQCを導入しようと全庁的改革改善運動「YAるぞ運動」を始めた。個人でなくチームで取り組み、従来の仕事とは違う観点から楽しい仕事に変えようと呼びかけた。4年間で全職員約4,000人のうち1,500〜2,000人の職員が運動に参加。やらされ感でなく、自ら進んでやることで達成感が生まれ、それが評価される。公務員もいい仕事をしたいわけで、仕掛けをうまくすれば、十分にやりがいを感じられるようになる。

杉立

 行政職員の意識・気構えを高くすべきだと叫ぶだけでは、基本的にはだめだと思う。上らない構造があるのなら、上げる構造をつくること。そうした意味では白井市長の取り組みは立派だと思う。やる気を起こすための評価も大切。知恵と工夫が必要だと思う。

建山

 ここで会場から意見や提案をいただきたい。

(会場)

 責任所在の問題にも関係するが、日本語は主語が不明確。役所の表現の中に「OOするものとする」という表現があるが、どう考えてもおかしい。「誰が」という所在が見えにくい。

白井

 不明確な指示書や説明文書があること自体がおかしい。そのような文書があるなら、上品で分かりやすい文書に変えるように努力したいと思う。

建山

 市民との関わり方に論点を移したい。行政が、市民・町民と同じ目線に立つためにはどんなことが考えられるのか。

西村

 民への移譲を含め、官と民の役割バランスを整理してみることが重要だと思う。当然、首長のリーダーシップが大切で、最終責任は首長がとる。はっきり首長が言い切れば、組織がピシッと締まるはず。

建山

 難しい市民もいるはずだが。

白井

 反対派・賛成派、評論家、熟度の違う市民など様々。立場や態度の違うごちゃごちゃの中で一緒に議論をしてみると、回を重ねるうちに市民同士が整理をしてくれることも。時間がかかるが、いろんな人たちが様々な角度から話し合う場が大切だと思っている。

●クレーマーの声 行政を変えるチャンス

田村

 クレーマーの声には耳が痛いが、その声にどう対応できるかがポイントでもある。クレーマーの訴えることが、行政を変えるチャンスにもなり得る。道路維持管理の現場で1年間のクレームを記録しておくと、予測も可能で、あらかじめ対応しておけばクレームも減る。もう1つ、賛成の声は出し難い。そのためにも情報はできる限り公開することがポイントになる。

建山

 情報をオープンにすることは理解を得ることにつながり、行政にとっても大切なことだが。

杉立

 合意形成の中核をなすのは情報公開だと思う。不用意に公開すると混乱を招くようなものは非公開にするケースもあり得るが、その情報が執行する側にとって不都合だという理由で非公開にすべきではない。そのような原則でのぞむべきだと思う。 

(会場)

 市民力をつくっていくためにも、市民のための学習の場づくりが大切。行政側もそれを心がけるべきだと思う。

●行政と一体となり「市民力」

西村

 市民力を私の町では町衆と呼んでいるが、今後は町衆の力をどれだけ発揮できるかがポイントになる。城崎は81年前(1925年5月23日)の北但大震災で町が全焼し270人が亡くなった。当時京阪神の皆さんにお世話になったので、阪神淡路大震災のときには翌日に救援隊を送り、1週間に1度は神戸に行っていた。このときも町衆がしっかりしていた地域は早く立ち直った。市民力をつけること。これを行政も一緒になって取り組むべき時期を迎えていると思う。

建山

 最後にパネリストの方々に本日の感想を含めて、話していただきたい。

白井

 市長のリーダーシップを発揮するためには常に意識を安定にしておくことが大切だが、いつもうまく行くとは限らない。そんなときに職員や市民の方々に励まされるし、逆に市民や職員にエールを送ることも。補完と連携が重要だと思う。パネルディスカッションで語り合う中でも、皆さんに元気をもらった。

西村

 町長を経験して首長の権限の大きさを実感した。だからこそ市民は選挙にもっと関心を持つべき。また、議員のレベルが低い。昔はそうでもなかったが、今では小遣い稼ぎや利権稼ぎの人が多い。そんな議員を選挙で落とすべき。そうなっていけば日本の政治も行政もよくなると思う。

●説明できる枠組みづくりを

杉立

 行政が担う部分で、どうしても民間至上主義にまかせてはいけないことはある。「公」のやり方の拙い部分を公自身も工夫する努力が必要。そのためにも首長や行政の役割は大きいと思う。また、意思決定について市民、住民にはっきり説明できるような枠組みづくりも大切だと思う。

田村

 ディスカッションを通して、行政の問題点を叩くだけに終わらせず、後の世代につなげるために再構築しなければならないとあらためて認識できた。

建山

 日本では成長を遂げる間にじつに様々な法や規制、マニュアルなどがつくられた。変革をと思ったらそれらが足かせにもなり、変革が進まない。その典型が行政なのかもしれない。法や規制は市民生活をよくするためにあるべきもの。白井市長の取り組みの話を聞きながら、尼崎から日本が変わっていくようにも感じた。本日はありがとうございました。


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