REPORT

2018年現地シンポジウム

えちぜん鉄道・福井鉄道の再生と地方鉄道の持続可能性

日本海側地方に本格的な冬の到来を迎える平成30年(2018年)12月8日、福井市において現地シンポジウムを開催した。収支悪化、事故多発などで存廃議論にまで至っていた旧京福電鉄(現えちぜん鉄道)と福井鉄道がいかに再建され、その過程で県、沿線市、鉄道事業者、沿線住民、NPOなどがどのような役割を果たしてきたのか。意見交換会では当事者だった人たちに当時の経験などを聞くとともに、議論は今後の地方鉄道の在り方にまで広がった。(文:前田秋夫・岡村隆正、文責:下條章義)

■現地シンポジウム出席者(敬称略)

<福井側>内田佳次(ふくい路面電車と街づくりの会「ROBA」会長)、清水省吾(同事務局長)、脇本幹夫(元福井県、福井市LRT担当理事)、美濃部雄人(元福井県都市計画課長、現静岡市副市長)、伊東尋志(えちぜん鉄道株式会社専務取締役)、向坂英治(福井鉄道株式会社取締役)、川上司(福井大学特命教授)

<地域デザイン研究会側>平峯悠理事長、岡村隆正事務局次長、小川雅司大阪産業大学教授、小山二生監事、立間康裕(元大阪市道路部長)、中尾恵昭理事、前田秋夫泉北高速鉄道取締役技術部長、山部茂理事、下條章義理事

■えちぜん鉄道・福井鉄道の再生に至る経過及びその後の取り組み <福井側の説明>

旧京福電鉄、福井鉄道とも経営的に非常に厳しい状況下、鉄道そのものの存続問題に発展した。そうした状況を沿線住民、NPOなどの市民団体、鉄道事業者、県、沿線市の行政等がどう取り組んでいったのかについて、NPO法人「ふくい路面電車とまちづくりの会(ROBA)」、えちぜん鉄道、福井鉄道、福井大学の方々から経緯を中心に説明を受けた。

(1)えちぜん鉄道(旧京福電鉄)の経緯と再建

平成元年(1990年代)頃から、京福電鉄は経営困難な状況に至る。平成9年(1997年)、県、沿線自治体に支援要請し3年(後に+1年)の限定支援を受ける。平成12年(2000年)12月、正面衝突事故(死者1名、重軽傷者25名)発生。平成13年(2001)6月、2度目の正面衝突事故(重軽傷者25名)を起こし、国土交通省から即日「運行停止命令」を受ける。

これまでの鉄道利用者(日平均8000人)はバス、自家用車に転換を余儀なくされる。バスは積み残し、電車の3倍の時間、並行する幹線道路は渋滞激化など発生。こうした状況は2年後のえちぜん鉄道運行までの間、地方鉄道がなくなった時の「マイナスの社会実験」と言われている。

地域全体が社会資本としての鉄道の必要性を共有するに至るまでには、関係者の役割・責任分担と一体の「上下分離方式」の検討、「費用便益分析」による鉄道のもたらす効果を客観的に判断する提案がなされた。

これらの検討案を沿線市の市民団体、ROBAなどのNPO、県・沿線市などの行政、鉄道事業者らが連携し、かつ役割分担して主体的に活動した結果、「京福電鉄存続県民会議」が発足する。沿線各市の存続運動の盛り上がり受け、首長会議、県議会が「存続」を決議し、ついに県、沿線市が中心となり福井県経済界、存続運動を展開した住民団体までも出資する「えちぜん鉄道株式会社」が設立され、運行停止以来2年1か月を経た平成15年(2003)7月、ついに運行再開にこぎついた。

再開には安全を最優先に、乗客に優しい鉄道としてアテンダントの乗務、利用しやすい鉄道として運賃値下げ、フリー乗車券の発売、バスとの連携などを次々に実施した。

(2)福井鉄道の経緯と再建

平成19年(2007年)9月、福井鉄道は大幅な減損損失を計上し県および沿線市に支援を要請。えちぜん鉄道の再開後、乗客の順調な増加、沿線住民の鉄道の再評価、税金投入による鉄道再生の基本的な合意形成があったと評価され、平成21年(2009年)2月、国の「鉄道事業再構築実施計画」の第1号に認定され公的資金が投入されるようになった。その結果、鉄道施設と経営のいわゆる「上下分離」、線路改修、4駅の新設、パークアンドライド駐車場の3倍増設、新型車両4編成の導入、えちぜん鉄道と相互乗り入れなどが実現した。

■これまでの現地シンポジウムから見える地方鉄道存続に向けた取り組み(<地域デザイン研究会の説明>

(1)調査事例の紹介

 平成18年(2006年)から地方鉄道の存続、活性化問題に取り組み、現地シンポジュウムでの意見交換を実施してきた。8つの地方鉄道「富山ライトレール」、「高岡万葉線」、「高松琴平電鉄」、「和歌山電鉄」、「岡山電気軌道」、「水間鉄道」、「近江鉄道」、「京都丹後鉄道」はいず
れも地域で重要な役割を果たしている。その経営、変遷などについて鉄道の経営採算性を判断する上で重要な指標「輸送密度」などを示しながら説明した。

(2)地方鉄道存続に向けた取り組み

<鉄道の必要性について>

鉄道が沿線住民、市民、沿線企業、行政、さらには株主等にとって社会的基礎インフラであるとの認識の共有が必要。地域を支えてきた歴史的遺産・資産であること。地方都市・地域にとって都市格を高めていること。鉄道を取り巻く自動車との競合、人口減少、利用者の変化など、その環境を正しく知ることも必要。

<鉄道経営者の努力>

安全性、ダイヤ、運賃、相互乗り入れ、乗客サービス(CS)、バスなど他の交通機関とのネットワークや乗り継ぎ運賃割引、バリアフリーなど、利用しやすい運営、効率的な運営に努める。またイベント列車、沿線ハイキング、鉄道外収入なども取り組む。

<沿線住民との協力>

沿線の魅力として歴史、文化、伝統行事、体験学習などの掘り起こし。

<沿線企業や学校との協力>

通勤・通学利用の拡大、ホテル・各種施設等への最寄り駅からのアクセス表示や一日乗車券、観光客を対象にした取り組み。

<公共との連携>

鉄道は都市・地域住民の移動施設であり、市役所や各行政機関、病院、福利厚生施設などの公共施設と鉄道ネットとの連携を配慮する。いわゆる人の流れを考えたコンパクトシティと交通ネットワーク化。さらに鉄道施設、車両などと経営を分離した上下分離方式や第3セクター化、あるいは乗り継ぎ割引やシルバー割引などへの税金投入の合理性を明確にして公的支援(補助金、交付金など)の受けいれられる環境づくりに努める。

<全国地方鉄道との連携>

 各地の特産品展の相互開催、観光施設・大規模行事などの共有案内なども取り組む。<マップの作製、配布> 沿線市の鉄道マップ、ハイキング・サイクリングマップを作成し広く配布する。

■意見交換


内田ROBA会長     清水ROBA事務局長

左から  向坂  伊東  川上  脇本  美濃部の各氏 

両者からの説明や簡単な質疑の後、地方鉄道の持続可能性をテーマに意見交換を行った。

<地域デザイン研究会側からの意見>

 ▽今まで鉄道経営は頑張れば持続できるとされてきた。鉄道事業者もその意識だったが、都市と地方で人口密度が大きく異なるなど鉄道を取り巻く環境を正しく知る必要がある。

▽行政に交通政策を考える部門がない。道路の計画や整備部門があるだけ。交通政策を考えるにもセンサスは出さないし、パーソントリップ調査も極めて使いにくいものとなっている。

▽観光との連携はダメ元でもやった方がいいと思う。

<福井側からの意見>

▽道路への税投入が莫大な一方、鉄道への税投入がほとんどないことなど、基礎的な情報すら国民は知らない。

▽人、車の移動データはグーグルの方が役立つ。

▽パーソントリップ調査は端末を含め使えるようにしてほしい。

▽福井市は道路整備水準が高く、行き過ぎた車社会になっている。それを公共交通へシフトさせることが重要。

▽現在えちぜん鉄道は駅、トイレを快適化している。その影響か、この5年で通勤定期客が増加している。▽バスの運転手不足で廃止せざるを得ない路線が出てきている状況。

▽冬季は雪の中でマイカーを使いたくないと鉄道に乗り換える人がいる。▽えちぜん鉄道永平寺口駅で県が停車場線の整備、ロータリーや県営パーク&ライド駐車場整備したところ、乗降客が増加した。道路整備も鉄道の利用環境を整える投資は利用者増につながる。

▽鉄道事業者にとって観光は他人事。行政は道路整備だけでなく、鉄道を上手に使える環境を考えてほしい。それが道路の渋滞緩和につながる。

▽とは言え、えちぜん鉄道は芦原温泉、東尋坊、永平寺、恐竜博物館などを結んでいるので、それを生かすべきだ。

▽近い将来、新幹線が整備され、JRの並行在来線の問題が起きる。その時にはえちぜん鉄道、福井鉄道に加えJR線にも自治体が支援していくことになるだろう。J
Rの並行在来線は北陸3県なりの広域運輸連合として取り組み、鉄道ネットワークのスケールメリットを出して
いくことが重要だが、現在の制度は府県別になっている。

▽クルマの社会的費用を顕在化する必要がある。例えばショッピングセンターでの無料駐車サービスがあるが、鉄道利用者にはそれに見合うサービスが無い。クルマ利用者と鉄道利用者を平等に扱うなどが必要。

■感想

▽「えちぜん鉄道」「福井鉄道」の問題は過度のクルマ依存の弊害、地方都市における人口拡散政策の限界、地価下落、人口減、少子高齢化など「都市政策の転換期」とリンクする問題である。この問題に対応するため、コンパクトシティ構想、中心市街地の再生と公共交通の再構築など、地域住民、行政、企業などが連携した取り組みが重要であろう。

▽両鉄道は地方鉄道存続問題取組の成功事例である。皮肉ではあるが2年に及ぶ「マイナスの社会実験」により、鉄道の必要性が関係者間にしっかりと共有されてきたと言える。それにより沿線住民、市民、沿線企業、行政がそれぞれの役割に主体的に取り組めていた。他の地域の場合、この点が曖昧なケースが多い。特に沿線住民、市民が鉄道の必要性を共有するのが実は最も難しい。

▽福井の両鉄道ともその後、利用者数は増加しているとはいえ、今後も人口減少、少子高齢化は続くので地方鉄道存続のトップランナーとしての活動に期待したい。


えちぜん鉄道・福井鉄道試乗体験記

山部茂

現地シンポウムを開催した12月8日と翌日の9日、えちぜん鉄道と福井鉄道の試乗を行った。


FUKURAMU

えちぜん鉄道福井駅

8日の夕方5時過ぎ、宿泊先坂井市三国町に行くため、えちぜん鉄道三国芦原線の三国港行に乗車。1両編成で始発の福井駅ですでに満員。乗務していたアテンダントの若い女性は停車案内や途中の無人駅からの乗客への切符発売などで大忙し。少し余裕の出て来た西春江駅から終点までにインタビューを試みる。愛想良く応じてくれる。まだ新人で指導アテンダントが付き、気が付いたところを注意していた。結構人気の職種のようで、入社試験は相当の倍率だったようだ。

翌日の三国港発福井行きは、日曜日の8時過ぎということもあり比較的空いていた。アテンダントは乗車しておらず、無人駅からの乗客は切符が買えず、駅務員のいる降車駅では自己申告、無人駅では運転士が精算していた。我々が求めていた「えち鉄・福鉄一日乗車券(1400円)」は福井口駅でスムーズに発行してもらえた。 この切符を手に高架化された福井口駅で乗り換え、今度は勝山永平寺線に乗る。線区の異なる列車の乗換はスムーズなダイヤ編成で対応していて、待ち時間10分ほどで乗換られた。えちぜん鉄道は全線単線だが、三国芦原線と勝山永平寺線が共用する福井口駅と福井駅が隘路になっているように思える。ダイヤ編成をうまく組み合わせているが、ラッシュ時や事故発生時に対応するためか、福井口駅では折り返し対応設備も設けられていた。

福井口から永平寺口までは平坦区間でそこそこの乗客数だったが、それより先、終点の勝山までは山岳区間で利用客も少なく、経営的には厳しいと思われた。 沿線の見どころは永平寺、平泉寺、恐竜博物館。しかしいずれも福井市内からのバス連絡が主流になっているようだ。ただ永平寺の最寄り駅「永平寺口」では直前の11月末までの1カ月間、小型バスでの無人運転実証実験が行われていたようで、鉄道とバス併用の実施やアピール作戦が緒に就いたと感じられた。

勝山駅は駅舎が建て替えられ、おしゃれなカフェが併設されていた。駅の乗降客は1日あたり800人くらいなので経営的に厳しいのではとカフェのスタッフに聞いてみたところ、平日のお客は50人ほど、休日はその数倍あるので、トントンかなとのことだった。

勝山駅からいったん福井口駅に戻り、再度三国芦原線の福大前西福井駅まで戻って、そこから、えちぜん鉄道、福井鉄道相互直通運転車両「フクラム」に乗車した。乗り換えた福大前西福井駅はえちぜん鉄道の乗降客が最も多い駅で、併設のショッピングセンター内に駅舎があり学生の利用が非常に多いと見てとれた。

FUKURAM(フクラム=左の写真)は3両編成のトラムで車内は快適だったが、スピードを上げると軌道状態が悪いせいか、振動を拾い乗り心地としては今一つの感じだった。相互直通区間の駅舎は通路の拡幅や段差解消がなされており、高齢者、障害者への配慮なされていた。相互直通運転の福井鉄道区間は急行運転だが、乗客は少なく、車内は閑散としていた。JR武生駅から少し離れた越前武生駅で、今回の試乗は終了した。



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