MEMBER'S SQUARE

旅ゆけば

故郷を訪ねれば

下條章義

 古稀を過ぎて人生を振り返る気持ちがだんだん増してきた。一番懐かしいのは小中学生や高校生の頃の同級生。それに故郷の山河、町並。18歳、高校卒業と共に故郷を離れ、両親、妹弟、幼なじみとも別れ、一人の男として無手勝流で世の中に飛び込んだ。

 いわゆる社会人として定年頃までは、ゆっくりと故郷を振り返るような機会はほとんどなかった。何度か冠婚葬祭での帰省はあったが故郷に近い中核都市での催しで、円滑な行事進行、親類縁者とのご挨拶で故郷に思いを巡らす余裕はなかった。

 定年、その後の再就職も終え、やっと自分の身辺整理、趣味の充実、健康管理などに生活の視点が向くようになった。そんな心境にある時、故郷の級友からのクラス会案内は何よりも嬉しかった。旅のお誘いなどほとんどない現在、クラス会への出席を機に二十数年ぶり、故郷を訪ねてみた。

 北海道の石狩川沿いの小さな田舎町が私の生まれ育った故郷。故郷で育った昭和30年代中頃までは炭鉱があり、人口は2万人近かったように記憶するが、現在は半分以下の1万人を切っているという。自分の通った小学校、中学校の校舎は全く別の所に統合され、当時は普通高校だった高校も商業高校に変わっていた。通学で歩いた国道沿いの商店街は見るも無残なシャッター街で、歩いている人影さえ見かけない。自宅のあった周辺は新しい道路やアパートで思いだす施設は何も残っていなかった。

 ただ釣りをしたり泳いだ川は護岸が整備され、遠足で行った遥かに望む山並みは変わらず、かすかな思い出の地だった。 室生犀星の故郷を歌った詩の一節が思わず口から出た。「故郷は遠きにありて想うもの」なのだろうなあー!


HOME    潮騒目次