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私の一冊

アリガト 謝謝(シェシェ)

木下諄一:著

講談社:発行

推薦者:大戸修二

 東日本大震災から6年が経とうとする今年3月、行きつけの本屋で買い求めたのが『アリガト謝謝』。

 大震災直後、世界中から救援・支援の手がさしのべられたが、中でも日本を助けるため世界にも類をみない動きを見せたのが、老若男女を問わず支援に奔走した台湾の人たちだった。「どうしてこんなにも熱くなれるのか」。台湾全土で巻き起こった支援へのドラマをつなぎ合わせた、感動のストーリーである。

<第1章>3.11、台湾では何が起こっていたのか(ある外務省派遣員が体感した、台湾全土に広がる支援の熱狂 <第2章>義援金200億円はどうやって集まったのか(小学生の募金活動/70年前の日本統治時代/日本語と日本文化を学ぶ学生たち/被災地へ、手渡しで/大福餅屋の恩返し <第3章>謝謝台湾計画(日本から台湾へ、5500人による1800万円の思い/わたしたちは友達 <エピローグ>

 読み進む中で、日本への恩返しだと店の3日間の売上全てを被災地に送った店を、中年の日本人2人が訪ねる場面では、思わず涙があふれ出てしまった。台湾在住の日本人作家・木下諄一氏、日本文壇デビューの心を込めた一作。原作を元に、アニメーション映画にしてもおもしろいと感じた。

~縁は異なもの味なもの~

 例えが適切かは別として、縁は異なもの味なもの。私は台北で『アリガト謝謝』の作者・木下諄一さんに会う機会を得た。

 じつは6月3日の地域デザイン研究会通常総会後の懇親会で、先輩メンバー・Kさんと1つのことで意気投合。被災地支援の話題の中で私が3月に出版された『アリガト謝謝』を読んで感動したと伝えると、なんとKさんは台湾在住の作者とは長年の友人だという。2週間後に台湾に旅行することを打ち明けると、「会いたいなら彼に連絡してみるよ。向こうで本人に会えたらいいね」

 Kさんのあたたかい橋渡しによって、台湾旅行5日目の昼、台北市内のレストランで木下さんとランチを共にすることが実現。この本の出版に至るまでの経緯や作者としての思いを、ざっくばらんに話していただいた。

 今年で台湾在住30年になるという。「東北のことを知りたい。一方で台湾のことなら教えられる」。その2つの思いの交錯が執筆のきっかけだったそうだ。東日本大震災に対する世界からの義捐金の中で、台湾からの額は群を抜いたという事実。それを支えたものについて木下さんは言う。「日本が好きだということ。“親日”の一言では片付けられない、身内のような思いがあるからです。高齢者も若者もが世代を超えてメード・イン・ジャパンのいろんな要素に親しみを感じてきたし、日本がピンチになったあの時、一気に大きな力につながったと思います」

 この作品は徹底的な取材による事実に支えられている。しかし木下さんはノンフィクションでなく、フィクションとして書き上げた。「10年後にも覚えていてもらえるのは、フィクションだからこそ」との思いからという。裏話も聞かせていただいた。その1つが作品タイトル問題で、じつは校了2日前までタイトルは『アリアト』だったそうだ。日本語「ありがとう」を台湾人が発声すると「アリアト」。現地の声として最後の最後までこだわったが、日本の人には分からないという理由から、結果的に『アリガト謝謝』に収まったという。(文・大戸修二)


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