21世紀の科学技術は都市を変えることができるか?

平峯 悠

 今日の都市の形を作り上げてきたのは20世紀最大の技術革命ともいえる「鉄道」と「自動車」の普及である。1920年代のT型フォードの大量生産から始まった自動車の時代は現在まで変わらず継続している。

 20世紀の後半に手に入れた都市改造技術としては、①浮体構造による人工島建設、②大深度地下開発技術(ジオトピア)、③1000mを超える超々高層ビル技術、④リニア高速鉄道技術などであるが、リニア以外は経済性や必要性に問題があり、人間の生活本能から実現はほとんど不可能と考えられる。都市を変化させた「自動車」については、電気、水素ガス自動車など使用エネルギー面での変化、さらに「自動運転車」の実用化に向けた開発が進んでいる。しかし自動運転車が一般道路に普及するかは大きな疑問がある。

 21世紀の科学技術としては、医療分野等でのIPS細胞や遺伝子組み換えなどに加え、社会全体では高度情報技術、今話題のIoT(Internet of Things)が進展する。これはあらゆる工業製品、農業生産物、食料、生活用品、人工物(橋梁、道路、鉄道、建物等)に電子タグがつけられ、それがインターネット上で結ばれる。さらに物だけではなく場所や事柄もインターネットに載ってくる。これは都市生活や都市観光の分野で画期的なものになる可能性がある。最近の外国人の観光では、日本独自の文化を体験するために、日本人でさえ知らない場所に訪れる。これは場所やものがインターネットで世界中に発信されているからである。

 日本の人口減・少子高齢化に対応する都市の在り方・方向については、これまで潮騒等で「西欧都市計画の模倣でなく日本の独自の都市づくりを目指す」「歴史を振り返り江戸期の日本の都市や地域構造に学ぶ」「都市の骨格とも言うべき街路や広場などの都市的なるものを柱に、人間中心の都市に作り替えていく」「地域共同体の重要性を再認識する」などを提起してきた。今後の技術革新が都市づくりに劇的な変化をもたらすかどうか。

 20世紀は、人類の夢(速く、便利に、快適に)を達成するための技術が爆発した時代。それにより都市や地域の形が大きく変化した。21世紀は負の遺産ともいえる地球環境問題、景観問題等を解消し、水害・地震の自然災害等から社会を守るための技術の進歩が不可欠である。それを支えるのが高度情報技術である。地域社会の形はほとんど変化しないが、人々の行動や広がりは一変するであろう。

 坂村健氏は「ネット経由の運転、ビッグデータ処理、さらに人工知能(AI)の状況判断による最適制御のように情報世界と物理世界の接点はますます広がる。その接点がI o Tであり、社会全体のロボット化が進む」という(※)。このような世界はいまだ経験したことがなく、企業・産業にとっては新しい発展方向が見いだせるものの、社会全体でコントロールすべきソフトや理念が必要になる。生命に対する倫理、個人情報、人工知能の優先順位判断など哲学、制度、法律の対応などソフトがなければ導入してはならないともいえる。しかしそれでも、否応なしにイノベーションが進み地球全体への瞬時の情報伝達が進展する。

 IoTによる国際化は逆に国家や地域の文化や生活様式の土着性や伝統に否応なく対面せざるを得なくなり、自らのアイデンティティーを模索する試みも鮮烈になる。本年度、地域デザイン研究会では「歴史・地域資源を活かしたまちづくり」の調査研究を実施しているが、その狙いは、地域・都市のアイデンティティーを見いだすことにある。地域の特徴的なモノ、コト、面白さ等は住民・市民の生活を豊かにすると共に、新しい科学技術により広く世界に発信される。このことは地域間の交流や活性化にもつながってくるであろう。

 科学技術の行方を見通すことは難しいが、自己実現、豊かさとゆとりの技術として人間と社会にとっての新しい関係が生み出されることを願う。        

(※)坂村健「I o Tとは何か」角川新書



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