REPORT

台湾・高雄で「全線架線レス」LRT環状線形成

第1期海岸線ルート8.7㎞は2017年全線開通目指す

大戸修二

台湾高雄のLRT
都心を走行する高雄軽軌の構想図
(提供:高雄市政府捷運工程局)
台湾第2の都市「高雄」で、次世代型路面電車(LRT)による環状鉄道の建設計画が進められている。昨年10月から一部区間で試運転営業を開始、2017年中には第1期工事区間が全線開通するという。全線架線レス、優先信号システム、軌道敷内緑化、車両の快適性、駅舎のデザイン性など、時代を先取りした取り組みに興味津々の思いで今年6月、現地を訪れ、高雄市政府関係者に計画概要などの話を聞いた。

●現在の試運転営業区間はC1~C8

ルート図 高雄市は台湾南部に位置し、人口は首都の台北より多く、都市部だけで277万人。高雄港には巨大コンテナ船が行き交うという、経済・貿易に支えられた台湾南部の中心地である。2007年に台北からの新幹線(台湾高速鉄道)が開通。地下鉄(MRT)も2路線が運行している。

 高雄市政府捷運工程局は、観光戦略の一翼を担う新路線として、市街地を一周する環境重視のLRT環状線22.1㎞(=別添路線図参照)、「高雄環状ライトレール(高雄軽軌)」の新設を計画。現在、第1期工事区間(海岸線ルート)籬仔内駅(C1)~哈瑪星駅(C14)まで8.7㎞の建設を進めている。このうち2015年10月にはC1(籬仔内駅)~C4(凱旋中華駅)までの試運転を開始、今年6月末には試運転営業区間をC8(高雄展覧館駅)まで延伸した。工事が順調に進めば、第1期区間8.7㎞は2017年中に全線営業運転を開始する予定という。引き続き第2期区間(C15~C37)13.4㎞の工事を進めて、2019年中に開通に持ち込み、全線22.1㎞のLRT環状線化を完成させる計画である。

●上部にキャパシタ搭載、駅停車約20秒で集電・充電

 このLRTには注目される要素が多い。その1つが電力で走る電車でありながら、全線架線レスで走行するという特徴を持つ。駅間に架線が全くないことから、架線に伴う事故が無くなるだけでなく、都市景観へのダメージを大幅に軽減する。それを支えるのが急速蓄電システムの採用である。車体上部に蓄電装置「キャパシタ」を搭載しており、各駅(停留所)構内だけに設置された短めの架線から、車両側のキャパシタへと集電・充電。その作業は停車中の約20秒間で速やかに行われる。またブレーキでのモーター発電により、その電力をキャパシタに充電することで省エネ効果も発揮する。

●低炭素社会・海洋都市の創造をアピール

 高雄市はこのLRTシステムをスペイン・CAF社から導入。レール幅は1,435㎜の標準軌、車両は5両連結で全長34.16m、定員は最大250人、速度は最高50km/h、平均20㎞~25㎞/h。スペインでは既にセビリア、サラゴサの2都市で同システムのLRTが運行中という。車体デザインはイタリアのスーパーカーなどのデザイン美学を採用、流線型の車体、高雄の「水(海)」と「緑」を象徴する白色と緑色を使って、低炭素社会と海洋都市の創造をアピールしている。

 軌道敷は芝生化し、全線の軌道敷緑化率を80%以上に設定。それは見た目の美しさだけでなく、保水効果による温度抑制、下水量抑制を含め、都市のヒートアイランド問題の解消にも配慮した取り組みだ。レールには安全性に配慮した溝付きレールを採用、さらにレールをクッション素材で覆う、振動制御装置を施すなど、騒音・振動防止や快適走行性も追及している


 
鮮やかな色彩を取り入れた前鎮之星駅

愛河橋梁とC11駅構想図
(提供:高雄市政府捷運工程局)

●民族衣装の色彩を駅舎デザインに導入

 駅舎へのこだわりも特徴の1つだ。例えば「C3、前鎮之星駅」は、台湾先住民アミ族の民族衣装に使われている色彩(赤、黒、オレンジ)を取り入れるなど、ローカリティが際立つデザインを採用している。他の駅舎もデザイン性が重視されており、駅全体を緑で覆う試みも行われるという。

●優先信号システムで定時運行性高める

 路面電車特有の大きな課題が、平面交差する道路の信号で停車を余儀なくされる点だろう。その課題に対して高雄ライトレールでは、交差点の信号制御に路面電車優先信号システムを導入。電車が一定距離に接近すると、電車が優先して走れるように信号を制御、定時運行性を高めようとするものだ。走行を妨害するような行為に対しては、罰金制度も設けているという。試運転営業を進める中で、PRビデオのネット公開を行うなど、LRTへの認識強化も図っている。

 取材に快く応じてくれた高雄市政府捷運工程局の吳嘉昌・主任秘書は、「試運転区間の利用者からは、揺れが少なく低騒音、車内もゆったりして心地よいという声が多い。我々にとっては、人体工学に基づく新たな挑戦でもある」と話す。一方で第1期工事区間では、旧橋と新橋の融和を目指す「愛河橋」の建設は難工事といわれる。それについても「皆さんの協力で、2017年6月には完成させたい」と意欲を語った。

■新・旧文化の共存・融合を試行

 試運転区間のLRTに試乗させていただいた後、私は地下鉄(MRT)に乗車して高雄港に近い「哈瑪星(hamasen)鐵道文化園区」に行ってみた。そこには広大な旧鉄道ヤードが広がり、日本統治時代の今から100年以上前に整備された台鐵濱線の鉄路、旧高雄港駅(打狗駅)の名残が見られる。打狗駅舎は高雄港の歴史を展示・紹介する博物館となっており、線路上には当時の蒸気機関車を展示。ヤードを活用し、2年ごとに「コンテナ・アート」と「鉄鋼彫刻」のフェスティバルも開催されているという。 同用地の東側には、使わなくなった倉庫群が約1kmにわたり建ち並ぶ。同地区は芸術家達の創作活動・発表の場「駁二芸術特区」(=写真)として開放されており、旧施設をリノベーションした書店、文具店、映画館なども登場、新たな賑わいを創出している。

 高雄ライトレールは、高雄港沿いのこれら「駁二芸術特区」と「鐵道文化園区」の地域内を走行することになっており、「C14、哈瑪星駅」は鐵道文化園区内に新設される。旧軌道敷をLRTが活用することで、新旧文化の共存・融合を試みようとしている。

(文と写真・大戸修二)

博物館前には、懐かしい蒸気機関車を展示


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