主張

人口減社会の再編・再生を「歴史(江戸)」に学ぶ

平峯 悠

●絶望的?衝撃的な国勢調査

  2月に発表された2015年国勢調査速報値は衝撃的であった。大正9年の調査開始以来初めて我が国の人口が減少(97万7千人)、33道府県および全国1719市町村のうち82.4%の市町村で減少している。地域的には東京、神奈川、埼玉の首都圏では増加。地方の特に東北、山陰、四国等で減少という構図が加速している。地方創生・活性化、コンパクトシティー化などの施策の効果は?東北震災復興計画などは絵に描いた餅になるのではないか。実現可能性の低い首都機能移転論や保育園の増設、育児休暇制度の拡充、高齢者を首都圏から移住させるなどの目先の施策で解決できるものではない。現実を直視し、国土・地域社会をどのように構築するのかを問い直さねばならない。

●人口問題

  人口減少は出生率、死亡率、婚姻、経済、地域間流動これらが相互に関連するが、全国的な都市化により、農村・地方から都市へと人口が流動し、大都市では晩婚化が進み出生率が低下する。都市の活動は各地域からの若者を中心とした労働人口の流入により維持される。日本の高度成長を支えてきた都市化が高齢者を急増させ、地方部における女性の減少を招き、結果として少産少死となり、結果的に人口増加はゼロからマイナスとなる。歴史を見ると江戸期は人口停滞時代であり、それは江戸の文明が完成の域に達し新しい制度や技術の進展や生産の量的な拡大が困難になったために起こったことである*。日本が直面している人口減社会は、近代西洋文明社会が最終段階に入ったことと考えるのが正しいと思う。

●歴史・江戸期に学ぶ

  江戸期の特徴としては、第1は、閉鎖社会の中で約3000万人の人間が殆ど貧富の差がなく、貧しいながら平和で心豊かな生活を送っていたことである。そのことはイギリス初代駐日大使オールコックやイザベラバード女史が江戸末期の日本を賞賛した事からも明らかである。第2は、現在クールジャパンを支える物づくりや伝統的な工芸などが江戸期を通して成熟し、それが近代西洋文明に追いつき凌駕する原点となっていること。第3に、日本独特の倫理観、秩序観、死生観、道徳などが江戸期に庶民にまで浸透したこと。第4は、幕藩体制という統治機構で、多くの矛盾はあるものの、加賀百万石から2万石の小藩に至る約250の藩や幕府は、独自の殖産興業に力を入れ、地域の特産物の奨励や専売により財政を維持発展させようとしてきた。政治は中央集権であるが経済や文化は地方主導である。第5は、エネルギーや廃棄物、食物に及ぶ循環型社会を実現したことである。このように静止人口社会の構築には江戸期は一つのモデルでなる。それにしても約300年も続いたことには驚く。

●人口減社会の再編再生

  これからの国土の在り方は江戸時代をも参考に次のように考える。今後も平和であり経済的な国力の変動は少ないことを前提に、①日本人の生活感覚に最もマッチした「質素で簡潔な」地域社会・環境の構築、②高齢化・人口減の中で風土産業を発展させ持続可能な長寿社会の実現(徳島県上勝町に代表される独自の取り組み)、③世界に通用する日本の職人技、和食文化、地方で永続する手工業や金属加工技術の新しい展開と価値の創造、④それを可能とする地域主権・主導の徹底-等であろう。

  日本人の真面目な国民性で高度成長を目指し効率重視の都市化に邁進してきた結果、歪な国土構造を招来している。国土の再編、都市・地域計画では、昔の生活に戻る事を目指しているのではなく、生き方や住まい方のブレイクスルーが求められる。これからの「都市計画」や「立地適正化計画」には行政・住民・民間が現実を直視した明確なビジョンを共有することから始まる。もはや欧米諸国はモデルにはならない、そのため日本の歴史から考えよう。経験したことのない人口減少と年齢構成の変化、地域の縮小・再編、施設の再配置、移動・交通の在り方など新たな計画論への挑戦が始まったと言えよう。

*鬼頭宏「人口から読む日本の歴史」(講談社文庫)


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「人口から読む日本の歴史」鬼頭宏 (講談社学術文庫)