主張

“計画”がもたらす「ひずみ」や「矛盾」を少なくする

平峯 悠

  新国立競技場計画は出だしから大失敗であるが、私達の生活する地域にはこれまで多くの計画が実施されてきた。都市計画や道路計画等も、現在よりもより良い環境が出来上がると信じて実施する。しかし本当にそうなっているだろうか。過去を振り返ると、ある計画が実行されたことによって想定しなかった「ひずみ」や「矛盾」が表れてくることがよくある。そのひずみや矛盾は長期間を経て顕在化するものや、実施直後から現れるものなど様々である。

  例えば東京への一極集中・首都圏ひとり勝ちのいびつな国土構造はどのようにして作られてきたのか。昭和37年から始まった全国総合開発計画では、過大都市防止と地域間格差の是正、豊かな環境の創造、多極分散型国土の構築など国土改造の目標と課題を掲げ、それを具体化するため多くの計画が実行されてきた。しかしいつの時代の計画も意図的に首都圏への一極集中を目指したものではなかったはず。全国的に展開された新幹線整備や高速道路建設は地域格差の是正とは逆の結果をもたらし、さらに経済優先や効率重視、利便性の追求なども首都圏への集中に拍車をかけたといってよい。地方活性化のための公共投資も雇用創出に必ずしも貢献せず、逆に地方を疲弊させるという矛盾した結果も生じている。

  ガソリン税の創設は、道路整備に大きく貢献したが、騒音・大気汚染を引き起こし、その是正には制度的にも技術的にも長期間を必要とした。公害問題はある程度収まったが交通事故等は現在でも多くの悲劇を生んでいる。都市中心部や駅前の再開発事業は、以前の生活環境や経済活動を変化させ、商
店・商店街の衰退や新たな環境に適応できないなどの課題も多く見られる。またバイパス建設計画に伴う大規模スーパーの立地が、新たな問題を生じている事例なども同様である。計画実行の結果、特定の地域や人・組織にとっては以前よりよくなったとしても、その影ではひずみや矛盾が引き起こされることがある。時間による定着を待つか、それを解消する新たな計画が必要になる。この繰り返しが私達の社会であるといってもよい。

  このようなひずみや矛盾を少なくするには、「歴史に学ぶ」ということと、「ビジョン、理想像」を追及するということが重要である。私達の現在は過去の計画の結果であるとすると、それを遡り検証していくことは必ず行わねばならない。しかし現実には実施すればそれっきり、先人たちがどのような思いで計画し実行してきたかについて、計画担当者でも関心を示さない人がいるのは残念なことである。9月に実施した都市計画プロジェクト研究会議での講演「近代ニュータウン建設の系譜」では、都市の理想像・ビジョンを掲げ理想都市実現に時代を超え挑戦してきた先達の功績と努力に改めて感銘を受けた。

  人口減・少子高齢化への対応として「立地適正化計画(コンパクトシティー)」が話題となっているが、居住地の選考や各種施設の立地変更等は非常に大きな変化をもたらし、これまで生活してきた地域への愛着や人々の精神的安寧にも大きな影響がある。言うまでもなくその計画により生ずる恐れのあるひずみや矛盾を可能な限り少なくしなければならない。幸い最近の計画手法には、住民や居住者の合意や納得が前提となっていることから計画を誤ることがないと期待はするが。大阪では、都構想が再び次の選挙の争点なるという。統治機構の変更というのは私達が経験したことのないもので、市町村合併とは比較にならないひずみや矛盾が引き起こされることを覚悟しているのであろうか。

  計画はイデオロギーではない。リアルに物事を考えあらゆる事態を想定し、歴史やビジョンに照らしその是非を判断することが必要である。社会科学は、社会のひずみや矛盾に目を向け計画しそれを実行するということの繰り返しによって揺れながら少しずつ進歩していく。自然科学の直線的な進歩とは違う。