REPORT

奈良の奇祭

中尾恵昭

毎年2月11日の祝日、私の住む奈良で奇祭が2つ行われます。朝からは「綱掛祭(お綱祭り)」、昼からは「御田植祭(砂掛け祭り)」です。今回はその報告をしましょう。

◆綱掛祭

 大和川を挟んだ桜井市江包と大西村で行われる素盞鳴尊と稲田姫命の結婚の儀です。各々の村人が新藁で重さ約600sの雄綱と雌綱を作り、大西村から江包牛頭神社に運び込み、神前で夫婦の契りを結びます。

 江包とは河に包まれた村という意味で、この祭りは大和川の氾濫を治め、豊かな実り(五穀豊穣)を念ずるとともに、良き子宝を授かり子孫繁栄を祈願するもので、古くから絶えることなく行われてきたものです。なお、仲人役は世襲となっており、神様の婚姻ということで両村の間には姻戚関係が無いとのことです。

 なお、何年か前に子供に恵まれていなかった夫婦をお誘いしたところ、いままで3組全てにご利益が授かった実績があります。

 600s同士の藁塊の和合は迫力があり、一見の価値があります。

◆御田植祭

 昼からは大和川に沿って北上し、奈良盆地の諸川の合流する河合町に鎮座する廣瀬神社に向かいました。この神社はもと官幣大社で龍田の風の神に対し、水徳の神として尊崇され国家的な行事が営われていたとのことです。

 午後2時頃より拝殿前の広場に青竹を立て注連縄を張って田圃に見立てた境内で村人が扮した田人や牛役が田植えの準備の所作をします。太鼓の合図とともに拝殿に一礼すると砂掛けの始まりです。

 田人は鍬や鋤で周りを遠巻きに囲んでいる参拝者に砂をかけて回ります。参拝者も負けじと砂をかけ返します。1〜2分後、太鼓が鳴るとそのラウンドは終了です。その後、再び田人や牛役が現われ次の田植えの準備をし、それから砂掛けです。それが10ラウンド近く続き、その砂で社殿も周りの人も砂まみれです。その砂は雨に見立てられており、それが多く飛びかう程、その年は豊年と言われます。まさに五穀豊穣を祈念するものです。

 砂掛けの後には松葉、餅撒きがあり、松葉は田の水口に立てておくと稲の病気が入らない、また家庭の玄関に立てかけておくと厄除けになると言われます。また、餅をいただくと無病息災のご利益があるようです。

◆「米作り」は洗練された至高の「文化」

 私は奈良盆地の真ん中、大和高田に在住する百姓です。父親の代まで専業農家でした。今は私が米作りをしています。よって、田人の所作の一つ一つが理解できます。

 米は太陽や水、土壌といった自然からの贈りもの、賜物です。それに善良で勤勉な農夫の丹精込めた働き、工夫と気持ちが良質な米を産むのです。

 しかし、残念なことに日本の農業の現状は、余程のことがない限り、米だけではとても食べていけない、採算が取れないものになってしまっています。

 米は単に食を満たすだけでなく、私たち日本人にとって心身の基本、根幹であると思います。米作りは単なる産業ではなく、古くから伝えられ、改良され、洗練されてきた至高の「文化」であると思います。

 今回紹介しましたこれらの祭りは、その米づくりの精神を究極までに昇華させた「素晴らしき農村文化」といえるでしょう。


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